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 寂しい片耳  澤田瞳子  久しぶりに少し、落ち込んでいる。お気に入りのピアスを片方、落としてしまったからだ。これが一人で行動している昼間なら、諦めがつくまで探しに戻るが、生憎、紛失に気付いたのは夜。それも編集者の方々に丸一日取材にご同行いただいた末、お疲れさまと入ったであった。  ようやく一息ついてらっしゃる編集者さんたちに、(1)。動揺を押し殺してさりげなく周りを見回し、やっぱりない、と片耳に触れるのが精いっぱい。朝からほうぼう歩き回った後のため、探しに行くのはどう考えても不可能で、そのまますごすごと家に引き上げた。  親しいお店で作っていただいたピアスなので、片方だけ発注する (注1)のは難しくない。(2)自分でも珍しいほど落ち込んだのは、それが三、四年ぶりの落とし物だったからだ。  ピアスホールを開けて間がない二十代の頃は、着用に慣れていなかったため、二、三か月に一度は必ずピアスを落とした。三十代からは徐々にそれが間遠になり、この数年はとんと失敗をしていない。  最初から自分の迂闊さを(3)、何を落とそうともがっかりはしない。もはやそんなことはあるまいと高を括っていた(注2)だけに、傲慢な自分がなおさら情けなくなる。顧みれば逆上がりも九九も苦手だった子供の頃は、「できないこと」をたくさん抱えているのが当然で、どんなミスをしても平気だった。大人になればなるほど、失敗が怖く、人の眼が気になってきたのは、知らず知らずのうちに自分が「できる」人間と考えるに至ったからかもしれない。  だがそもそも、年を重ねたから失敗をしないというのは、幻想だ。ピアス(4)、最近たまたま落とさない日々が続いていただけで、明日からは毎日紛失を重ねるかもしれない。いや、自分のうっかりエ合(注3)を考えれば、むしろその方が自然だと自分に言い聞かせながら、私はまだピアスの消えた片耳を撫で続けている。  (注1) 発注する: 注文する  (注2) 高を括っていた: 油断していた  (注3)工合:具合

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